所在地
島根県斐川町大字直江町4156

構造
鉄筋コンクリート造
一部鉄骨造
規模
地上2階
延床面積
2,958m2

二人の挑戦

この図書館は、私が独立前に勤めていた鬼頭梓建築設計事務所のOBで、現在藤原建築アトリエを主宰されている藤原孝一氏と共同で取り組んだ作品です。独立後、私は図書館建築を多く手掛けた実績を持つ前の事務所のOBと、協同して図書館の設計に取り組めないかと考えていましたが、そんな折にこの公開プロポーザルに出会い、「如魚得水」の思いで取り組んだものです。


冬の北西風

私は冬の日本海からの北西風を防ぐ築地松の存在を知り、この風土に建てる図書館の在り様がどうあるべきかを模索しました。(注:築地松の始まりは斐伊川との闘いから屋敷を守るために生まれたもので、北西風を防ぐ目的で生まれたものではありません。)私は田圃に囲まれた敷地条件を持つこの建物に、冬の北西風が吹き荒ぶ中を、また横殴りの冷たい雨の中を、追われるようにやって来る人々を、早く建物の中に迎え入れることのできる建築を作りたいと思いました。


中庭をつくる

私の頭には客家土楼という中国の環状民家のイメージが浮かんでいました。それは城壁のような壁の中に村を築き、外部からの襲撃を防いだ集合住宅です。この初期の発想が、中心に冬の北西風から人々を守る円形の中庭を配置するという円錐柱型建築の構想を生み、そのコンセプトに沿う形で楕円の中庭を中心に持つ平面計画へと進んでいきました。建物外壁は築地松のように冬の北西風から人々を守り、一歩中庭に足を踏み入れると、穏やかな図書館の内皮が、人々を包み込むように安全な空間へと迎え入れる、そんな建築をここで作りたいと思いました。

利用者は中庭の一角に設けた入口と駐車場側入口から建物に入ります。中庭側の正面入口を入ると左側にギャラリーやカフェテリアがあり、一番奥が視聴覚ホールという構成になっています。入口を入って右側に進むと開架入口があり、児童開架、総合サービスデスク、レファレンス、一般開架、AV、ヤングアダルトと南に向かって展開しています。2階は閉架書庫、公開書庫と学習コーナーとなっています。間仕切りのない開架スペースは吹き抜けによって2階へとつながり、死角の少ない安全な空間を提供しています。(注:私の案では公開書庫は1階のレファレンスに連続して設け、学習コーナーは設けていませんでした。)


共通のテーマ-冬の庭

児童開架と一般開架の間には「冬の庭」を設けています。プロポーザルでは2人が自分の案を出し合い提出案を競いましたが、この図書館のキーワードとして掲げた、「冬の庭」をどのように具現化するかは2人に共通のテーマとして取り組みました。この「冬の庭」という構想の先駆は北欧の図書館にありますが、日本でもとりわけ北国での実践の試みが見られます。日照時間が少なく雪に閉ざされた北欧において、自然の木々を植えた庭を建築内部に取り込む発想が生まれたものと思いますが、ここでも二人のテーマとして取り組んだものです。「冬の庭」はプランニングによって様々な空間を生み出す可能性があり、今後も機会があればチャレンジしてみたいと思いますが、ここでは木々の間で新聞や雑誌などが読めるコーナーになっています。またここでの「冬の庭」は児童開架と一般開架を適度に離隔する役割も持っています。


新しい図書館をつくりたい

私はこの図書館で、プランが柱に拘束されない図書館空間を作りたいと思っていました。それはプランニングを自由に行い、柱の位置は後から自由に決めることは出来ないかという発想によるものでした。今まではどうしてもプラン作りと平行して構造体である柱割を考え、その柱と柱の間に家具を配置していくという方法を取ることが多く、これが図書館のモジュラープランニング(Modular Planning)という考え方につながるわけですが、独立後初めて取り組む図書館の設計ということで、自由に空間を作れる構造計画を含めた新しいダイアグラムを考えていました。柱の拘束から離れたことでシンプルな勾配屋根の下に自由に開架空間を展開する可能が生まれ、この考えは更に次の函館市中央図書館へと発展させることができました。

この図書館は田圃の中にポツンと建っているように見えます。しかし築地松に囲まれた屋敷のように閉鎖的でも、簸川平野に点在する散居村落のように孤立してもいません。未来を育む生き生きとした活動を外に向けて発信し続けながら、優しい灯りをともして訪れる人々を迎え入れる建築に仕上がったことをうれしく思っています。そしてこの建築に携わることができたことを感謝して止みません。




業務主体は藤原建築アトリエ、弊社の立場は協同事務所です。
弊社業務として行ったのは以下の通りです。
・・・プロポーザル二次審査用技術提案書作成にあたり、オリジナルな平面図原案、立面原図、断面原図、コンセプトアイソメ原図を提出
・・・基本設計及び実施設計
・・・プロポーザル申し込み時に協同事務所として必要書類を藤原建築アトリエ宛てに提出
藤原建築アトリエとの取り決め事項
・・・弊社の実績として公言できるようにする旨の同意
・・・雑誌発表や各賞へ応募等に於いては、弊社名の掲載をする旨の同意
上記の文章は私のコンセプトとオリジナリティを逸脱しない範囲での説明に留めています。設計における藤原氏による変更・加筆部分については補足説明を括弧書きで行っています。また、同氏のオリジナルな部分については私の言葉による新たな説明は加えていません。