所在地
北海道函館市五稜郭町26-1

構造
鉄筋コンクリート造
一部鉄骨造
規模
地下1階・地上2階
延床面積
7,687m2
受賞歴
1999 / 兵庫県人間サイズまちづくり賞
2005 / 照明学会・優秀施設賞
2007 / 北海道建築賞/日本建築学会
2007 / 日本図書館協会建築賞

この図書館は、函館市が公募した設計プロポーザルコンペで最優秀に選ばれ、設計から工事監理まで足掛け4年に亘って取り組んだものです。

このコンペでは5つの課題についての提案を求められましたが、ここでの提案が設計から工事監理までを通しての私の道標となりました。


歴史と文化を彩る

歴史的文化財を持つ日本の多くの都市において、歴史的保存地区が観光用に整備保存され、レトロな建築を残した街区を形成する一方で、そこに住む住民の生活圏は、これらの保存地区とは異なる場所に形成されていることも多い。北海道開拓の一歩からその歴史が始まった西部地区は、保存地区として過去の時間のまま時計が止ったかに見え、北洋漁業とともに発展した函館駅周辺もその衰退を契機に求心性が薄れ、現在の中心は五稜郭地区に移っている。市中心部の移動や、グローバルな経済理念に支配された生活環境は、その地域性を失わせる傾向にある。歴史と文化とを、その地域性と合わせて考えるとき永遠に不変なものは、この図書館の持つ貴重な資料であり、それらの蒐集を生涯続けた岡田健造を始め先人たちの高い精神性と考える。これらの資料の公開とそれに触れることのできる図書館を提案することが、この街の歴史と文化を彩ることである。


景観と調和し、やすらぎの場となること

広大な駐車スペースを与条件に持つ三角形の敷地は図書館の設計には難解だが、冊数で約23万におよぶ開架空間の展開を図るために、防火区画を必要としない法的に許容される3000?までをフルに使った計画をし、図書館敷地と市道を挟んだ五稜郭の緑地を一体の敷地のように想定して計画を練った。開架空間にかかる大屋根は南側に向かって傾斜しスケールを落とすとともに、40万冊を収蔵する閉架書庫をすべて2階に設置することで2階建ての低層図書館を実現した。建物を作る素材も西部地区に残る建物に使用されている煉瓦・漆喰・色付左官材などの古くからある素材と、ガラス・メタルなどの新しい素材の組合わせることにより、地域性のある、景観に調和した図書館の実現を目指した。内部は木材と、珪藻土を使った左官壁など、室内環境を人に優しく調整してくれる素材を使い、温もりのある空間の中にやすらぎと憩いの場となるよう計画した。


快適で機能的であること

オープンな空間に開架スペースを展開することで、各コーナーの位置の把握がしやすく、開放的で、わかりやすく、安全で、利用しやすく、サービスしやすい図書館の実現を追及した。また開架の大きな空間に書斎のような読書コーナーや、外に出られるウッドテラス、天井高を適度に落とした五稜郭側のエリアなど、スケールに変化を持たせることで、利用者が自由に選べる心地よい空間の提供を試みた。利用者が快適に図書館を利用できるように、利用者にとっては分かりやすく、図書館職員にとってはサービスしやすい動線計画に基づく機能的で管理しやすい図書館を目指した。


人にやさしいくあること

すべての市民のものである図書館として、明るく、楽しく、そして新しい発見を生み出す場を創り出すことを第一に考えた。子供から老若男女・障害者を問わず、すべての人々に平等で快適で自由なサービスを保証できる機能と空間を追求した。道内では比較的温暖な地とはいえ、夏にストーブを必要とすることもあり、利用者の半数以上を車利用者が占める土地柄から、駐車場から図書館内部に最短距離で快適にアクセスできるように計画した。


ふれあいに満ち、将来性を育む

駐車場に車を置いたとき、駐輪スペースに自転車を止めたとき、バス停でバスを降りたとき、そこからすでに図書館は始まると考え内外を問わず、すべてのエリアがコミュニケーションの場となりうるような場と空間と情報を提供できる建築にしたいと考えた。1階に広がる開架エリアと2階のレファレンス・公開書庫が空間的・機能的に有機的なつながりを持ち、その接点となる読書テラスの利用者が、レファレンスを通して郷土資料等への興味と関心を持つようになることで、郷土を愛し、人を愛する人間を育むことのできる図書館になるよう計画した。

(以上、函館市中央図書館設計プロポーザルコンペの提案文より抜粋)



低層で分かり易い図書館であること

この図書館は述べ床面積7,687?を2階建ての低層建築に納めています。これが中層建築だと図書館機能を階毎にゾーニングできるため比較的やり易いわけですが、低層建築だと全ての関係を明快につなぎ合わせ淀みなく美しく関係付けなければならない難しさがあります。先ず利用者の動線処理がプランニングの上で最も重要になるため、この図書館は五稜郭側の正面入口と駐車場側入口を入った所に中庭を囲む回廊を設けることでその解決を図っています。


中庭の役割

中庭を囲む回廊には正面入口から時計回りに、児童コーナー内部が見通せる大型窓と大型展示ケースが交互に開架入口まで続き、次にサービスカウンター脇に設けた横長の大型展示ケース、次にインフォメーション、カフェテリア、ギャラリー、視聴覚ホール入口、そして視聴覚ホールホワイエを兼ねた休憩スペースへと一回りしています。ガラス越しには開架入口や各コーナーを始め、駐車スペースや2階の研修室までが相互に見通せ、この回廊の透過性とわかり易く設置した総合サインによって図書館全体の平面構成を容易に把握することができるようになっています。


最良のサービスをするために

図書館全体の構成は、1階に開架スペース、管理運営スペース、視聴覚ホール、中庭を囲む回廊(この回廊には先に示した各コーナーがつながっています)、2階はレファレンス、閉架書庫、研修・会議室、ボランティア室、地下に機械室を配置しています。開架スペースは、一般開架(ブラウジング・新聞・雑誌・インターネット・AV・大型本・函館学・ヤングアダルト・障害者用の各コーナー)、対面朗読室、そして児童開架、お話の部屋からなっています。管理運営スペースは一般事務、選書、印刷、電算処理、BM(移動図書館)サービスなどが円滑に行えるように同一フロアーにまとめて配置しています。また開架入口に設けた総合サービスデスクは、そのバックに展開するこの管理運営ゾーンや、2階のレファレンス、閉架書庫と密接に連携することで、利用者への迅速なサービスの提供を可能にしています。視聴覚ホールは150人収容の規模を持ち、図書館が企画運営するさまざま催しに対応できるようになっています。レファレンスは公開書庫(開架式)、貴重書閲覧に使用できるグループ研究室、個人研究ブースを持ち、サービスデスクを通して閉架資料の迅速なサービスが行えるようになっています。


スケールの大切さ

この広大な開架空間は間仕切りなしに展開し、2階のレファレンスと吹抜を通して連続しています。最長部37.8m、最短部9mの鉄骨トラスによる柱のない1,500?近い開架の吹抜と、それを取り囲むようにスケールを落として設けた各読書コーナーは、自分好みの場所を選択できる巾を利用者に与えています。また、トラスをガラスで覆った5本のトップライトからの自然光は、内部に組み込まれた照明と一体となって柔らかに光を拡散しています。これらの照明は太陽発電パネルによる自家発電と、昼光センサーの制御による節電が図られています。開架部分の空調は、人間の行動高さに合わせた床面から2m前後に限定した輻射冷暖房の採用による、また他のエリアの空調も、ゾーン分けした個別の制御による省エネを図っています。